ゴールドスミス・ノートが気になる(5)

金匠が顧客から金貨を預かることによって、どのようなことが起きていったか……

(金匠が顧客から金貨を預かることによってどのようなことがが起きていったか…について考えてみたい)

→まず、顧客から預かった預金残高の推移を見ていると、年月とともに減っていかないどころか信用の高まりとともに確実に増えていくことが見て取れたはずだ。5年10年と預かっていくうちにその量たるや結構な額になっていったとみたい。
→それなら、と、自分の資産でもない預かっている金貨ではあるけれど、ちょっと拝借して預金の1割2割3割…と貸し付けて金利を取ってみたところ、結果的に毎年何の問題も起きないことが発見される。
→貸出し比率は数年のうちに4割5割6割となり、それでもまだ大丈夫。
→何のことはない、7割8割9割貸しても問題が起きない。
→これ以上貸す事もできないので貸出し比率は預金量の9割ということで落ち着き、金匠はこのスタイルでしばらくは自己資金の充実にいそしむことになる。ここまで変化するのに10年という年月は必要ないと考えられる。

→また、いつまでも無断で顧客の資産を貸し付けているわけにもいかないので、預金者にはキチンと金利を払うことによって完結させ、金匠の資金運用については別途の行為としての合法的な体裁を整えていくことにいそしむようになる。

(ここまでの結論) 結局、他人の財産を勝手に貸してみたら思いのほか上手くいった、ということである。大大的にやっていける目処がたったのなら、社会的体裁、法律的合法性などを整備していったに違いない。

とにかくこの段階では、
①準備率という概念と資金効率というレバレッジという概念の創造と発見がなされたと見るべきだろう。
②ゴールドスミス・ギルドで秘密保持
預かった金貨は10分の1を準備金として保管し、残りの90%の金貨は自分の資産でもないのに秘密裡に貸し出された。このことは金匠ギルド内で門外不出の機密事項とされ、いざ金貨が不足したときに支援するために互助会制度のようなギルド会員専用の準備金制度のようなものが創設され、取付け騒ぎが起きた金匠の急場を助けたに違いない。これが現代の中央銀行制度のひな型となっていったであろうことは容易に想像がつく。

この段階では、まだ顧客から金貨を預り、顧客に対して金貨を貸す、という金本位で通貨の価値を担保し保証しようとした世界ということに注意しておきたい。しかし、この時点で既に運用する金匠サイドからみると準備金率10%、レバレッジ9倍というすさまじい効率追求がなされている。しかもカウントされるその準備金ですら、そもそも自分の資本ではなく顧客の預金の一部でしかないというトリックが発生している。